第6回未来の失敗をなくす【2022開催レポート】

2022年度最後の豊中ビジネスアップキャンプ最終回は、鯖やグループ代表サバ博士の右田孝宜さんを迎えて「未来の失敗をなくす」というテーマで、お話いただきました。

起業してから18年でさまざまな課題に取りくみ、多くの経営者・成功や失敗のシーンを見てきた右田さん。セミナー後半には、右田さんが会場参加の皆さんへ事業について個別にアドバイス。会場の皆さんがご自身のビジネスを振り返る有意義な時間となりました。

4つあった、人生のターニングポイント

「ターニングポイントは4つあった」と右田さん。

「高校時代」「海外留学」「鯖やの設立」「前澤ファンド採択」がその4つです。

高校時代は、勉強が嫌いで4年かけて高校を卒業。講師として母校に呼ばれたときに「あの自分が、在校生の皆さんの前で話をしている」と、胸にくるものがあったそう。

母親の「辞めたかったらやめていいけど、兄弟で比べられて後悔するかもしれないよ」の一言が、今に繋がっていると振り返ります。

2つ目は、23歳でのオーストラリア留学。

見るもの、しゃべる言葉も文化も習慣も異なる場所へ若いうちに飛び込み、英語を学びながら働いた経験が今に繋がっています。

帰国後、さまざまな仕事を経て、30歳で小さな居酒屋をオープン。

3つ目のターニングポイントは、2007年に株式会社鯖やを設立したことです。

「楽しくなかったらやめる」

「鯖一本でどこまでビジネスを大きくできるかチャレンジしよう」

妻と交わした2つの約束があったから、創業から16年鯖ひと筋で走ってこられた、と右田さん。

「ビジネスをするときは大きなことを考え勝ち。撤退基準を、ビジネスのスタート前に決めておくことが大事だ」といいます。

2014年には、とろさばの魅力を伝えるため鯖料理専門店の株式会社SABARを設立。2017年に鯖の養殖へ向けて、フィッシュバイオテック株式会社を設立しました。

4つ目のターニングポイントは、2020年12月に前澤ファンドへ応募し、4300社のなかからの13社に選ばれたこと。人生が大きく変わったとこれからの事業も紹介してくれました。

「未来の失敗をなくす」ために右田さんが考える、ブランド化、PR戦略、資金調達やトライしているモデルについて話してくださいました。

とろさばのブランディング

事業をするうえで「ブランディング」「ブランド化」は重要です。

とろさばのブランディングの柱は、飲食店。「おいしいんです、というだけでは売れるわけない。説得力がないから」と、右田さん。

とろさば専門店「SABAR」は、それを一つのメディアととらえて「さば=38」にこだわったPRを行っています。さばを使ったメニューは38品、店内の席数は38席、営業時間も「11時38分、いいさば」スタート。さばを飾り付けたバイク「サバイク」に乗ったりテーマソングを作ったり、どこへでも「鯖や」のロゴが入ったジャンパーで出かけます。

何者でもない自分が何者かになるために、と人の目に触れる機会を増やす努力をしていますが、これらは「実はこういう者です」と裏付けになっています。

創業間もない会社にとって、みんなが知っている会社・メディアと接点を持つことも大きいのだとか。

「あの○○と組んでいるなら」「あの○○が伝えているなら」と思われるように「誰が伝えるか」を想定しながらプレスリリースを作成したり、メディア向けのレセプションも行っています。

資金調達

事業をするうえで大切な資金。「金融機関だけでなく、他の選択肢も知っておくことは大事」と、右田さんも資金調達では苦労をされたのだとか。

2013年に豊中商工会議所で所長の吉田さんに教えてもらったひとつが。クラウドファンディングです。

クラウドファンディングでの資金調達も簡単ではありませんが「自分のしたいことが、本当に世の中に必要かどうかを考える機会になる」といいます。

ファン作り、メディア戦略につながるとともに、マーケティングや事業展開前に資金と顧客が確保できるところもメリット。

「クラウドファンディングは、情熱を資本に変換するシステム。これまで自分が貯めてきた『信用貯金』を返還できるのでトライする価値がある」との話に、会場の受講者も大きくうなづいていました。

前澤ファンドの採択

右田さんの「さば」の新しい事業は、2020年に応募した前澤ファンドでも採択され、人生の大きなターニングポイントだといいます。

応募締め切りの1週間前に「おもしろい起業家求む」という募集要項を知り「やってみよう」とトライ。締め切り当日11時38分に「イイさば、いってこい!」とクリックしたと話します。

1次審査がギリギリ通過、2次3次と通り、前澤勇作さんとの面談もして採択されました。 「採択基準は、社会課題を解決しているかと好きなことを仕事にしてるか」だったそうで、右田さんの考える「アニキサスフリーのさばを育てる事業」を通じて、さばを食べる文化を広めることに共感してもらえたようです。

僕らのチャレンジ「一気通貫モデル」

いま、右田さんはさばの養殖事業へチャレンジをしています。

赤潮・台風・海の高水温などはリスクを予測できても解決はできませんし、津波や海底噴火などの自然災害は予測も困難です。

「日本では養殖も難しくて、天然魚も獲れなくなってきた」と、右田さんはサンマを例に挙げます。

ここ数年、漁獲量が減り価格が高騰しているサンマ。消費者は、少し価格があがっても食べていましたが、次の年、また次の年、とだんだん食べなくなってきています。

「食べなくなっていくことが、食の文化の変化。さばがそうならないために養殖をしています」

SDGsの観点からも養殖は必要ですが、さまざまな自然のリスクもあり、右田さんが考えているのは「陸上養殖C-RAS」という仕組み。

大阪豊中市では庄内の駅前に拠点を置き、和歌山、埼玉、カンボジアでも関連施設を作っています。

「サバの生食文化をつくりたい。陸上養殖なら、それが可能だと期待しています」と右田さん。

現在、さばを生で食べる環境がないからこそ、もし生さばを安全に食べられるようになれば、マーケットも大きく変わることが予想できます。

「C-RAS技術によって、養殖のさばを安心して生で食べられるようになれば、天然と養殖を区別したブランディングで、さらにさば文化を普及させられる」と期待しています。

30歳で始めた小さな居酒屋から、妻の「さば一本でこだわったら?」の一言からスターとしたさばビジネスのチャレンジ。ほかの誰でもない、これまで、「さば」だけにこだわってきた右田さんだからこそのビジネスなのだなあと、誰もが尊敬の気持ちをもって耳を傾けた時間でした。

「うまくいってるように聞こえるけど、いろんなことがあった。続ければいつか成功にたどり着くし、やめれば失敗。やり続けることで『なにものでもない会社が、なにかになる瞬間』がある」という言葉も印象に残りました。

セミナー後半は、会場参加者がそれぞれ自分のビジネスの紹介や課題を紹介。右田さんがアドバイスをしながら交流する時間となりました。

右田さん、貴重な機会をありがとうございました。

(※テレビ大阪・4月16日午後に放映される番組で、鯖や・右田さんが紹介されます)

当日の内容は下記URLもしくはQRコードよりご視聴いただけます。

https://www.youtube.com/watch?v=eWjoJv0vBDI