2022年度の豊中ビジネスアップキャンプ(以下豊中ビーキャン)は「失敗」をテーマに、経営者の皆さんに体験やウィズコロナ時代の経営について語っていただきます。
第一回のゲストは、デザイン事務所ハイカルチャー代表・山中史郎さん。デザインを通して地域や仕事・商品のブランディングを行っています。また、豊中ビジネスアップキャンプの会場「sono」の運営にも携わっています
見えないコトもデザインする

山中史郎さんは、2011年に「茶畑のオーナー制度UMEZUKI/梅月」でグッドデザイン賞を受賞しました。
2011年は東日本大震災をきっかけに「地域」「地方」に光が当たり始めた時期。「茶畑のオーナー制度」は、商品になるまでの「風景」も含めた消費活動の仕組みづくりです。
農家さんとのコラボによって「この畑でできたお茶を買うことは、日本の風景という価値にお金を払うこと」という仕組みが、評価されました。
山中さんは、ロゴや看板やパンフレットの制作や店舗のデザインなど目に見えるものはもちろん、さまざまな業界の社会的な課題を「デザイン」で解決することを目指し、提案しています。
「10年ほど前は、スーパーで鶏肉といえば、ほぼモモ肉。でも、ムネ肉やささみ、手羽元、手羽先など、肉は一羽育てないと出てこないでしょ」と、消費活動がいびつになる課題に取り組み「鶏肉ってなんだろう?」と考えてもらうためのブランディングも行いました。
成功ばっかりじゃない
山中さんのお話には、斬新なものや今まで世の中になかったものの提案はもちろん、今まであったものに新しい光の当て方をした事例も多くありました。
例えば、鹿児島の牛農家からの依頼では、商品のブランド名だけでなく会社名まで新しくする提案も。
「ネーミングをわかりやすくするだけでも、消費者の想像することが大きく変わる場合もある」との話に会場の参加者も大きく頷いていました。
あえて「失敗」をあげてもらうと「最終コンペも通ったけれど他社の参入によって、成果物が披露されずに終わった」という案件を紹介。
山中さん自身の幼いころの夢を彷彿とさせるもので、当時はその仕事のために徹夜も重ねて没頭したとか。最終の姿を見ずに終わったことがショックで、しばらくは請求書をあげることもできませんでした。
「自分自身でなく、ほかの要因で結果的に失敗になることもある」と、ビジネスの厳しさを振り返ります。
自分のサイズ感でやるべきことを
豊中ビーキャンを受講する多くの人が「起業」や「新事業」に関心を持っています。この日は、フリーランスとして仕事をする山中さんの原点についてもお聞きしました。
山中さんは大学を卒業後に、映画監督になりたいと訪仏。「フランスに行っても、自分のセンスやガッツだけでなんとかなるものではないと知った」と振り返ります。
「この人はデキる」ということより「誰の紹介か」に重きがおかれる業界で「入り口を間違えた」と感じたそう。同時に、まわりにいる人たちからは「おれアピールの強さ」が伝わってきたといいます。
「一人称が熱い。メッキを磨いているようでイイなと思った」と山中さん。
「一人称を磨こうと実感した。帰国してからも、映画監督という肩書じゃなくて一人称として自分で言葉を話せたらいいと考えた」といいます。
帰国後は、バイトで専門学校の講師に。やがて得意だった映像制作の技術をアピールして求人会社へ営業をかけ、それが仕事に繋がっていきました。
「講師の仕事は、僕でなくてもできるし、ニーズがあれば成立する。映像の知識や技術を、ニーズのあるところへ営業したことが今の仕事の始まり。仕事は相手を選ぶことが大事」
「自分のサイズ感でやるべきことがある」という言葉が印象的でした。
なんでもいい、は違う
「一人称を磨く」ことを大切に考えている山中さん。フリーランスとして仕事をするときに「なんでもかんでも仕事をすればいいとは思っていない」と言い切ります。
「誰でもできる仕事よりは『この人にお願いしたい』という仕事をもらえるほうがいい」
納品後の請求・入金までも「この人にお願いしたい」という仕事の場合なら、ほぼスムースに進むと話します。
仕事を受ける際は「なぜ私のドアをノックしたんですか、というのは聞いていい。そういうコミュニケーションは大事」と、山中さん。ご自身も、相手が自分の何をいいと思ってくれたのかを聞きながら関係を築いているのだそうです。
はみ出してイイ
「失敗」をテーマに経験や考えを話してくださった山中さん。最近は失敗をしていないから「ヤバい」と思うこともあるのだとか。
「フレームに収まってるんじゃないかな、と。悪い意味で賢くなってしまうのは、まずいと思っている。ここ(sono)に関わっているのは、フレームからはみ出して、いい意味で怒られたいと思っているから」と話します。
最後に「山中さんにとって失敗とは」と聞かれると
「事業においては、改善できるものは失敗じゃなくて、発見。失敗するってことは、アウトプットしてることだから、大切ですよ」と、話してくださいました。
「ごはん屋さんに行って『わ、失敗した』となることだけは、避けたいですよね」の一言に、会場も和やかな空気に包まれました。
当日の内容は下記URLもしくはQRコードよりご視聴いただけます。
https://youtu.be/e3hRU9RzwXY
